待宵草の薄暮日記

今は趣味三昧の気ままなひとり暮らし。 覚悟をもって毅然と、でも時には誰かのために熱くなる、そんな日々の徒然を綴っています。

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奇跡を祈る想い ・・・追想9

夜になると少し痛みが出るようだった。母は昔から寝つきの悪い方で、ここ最近はレンドルミンが離せない。しかし、食欲はあり体調は悪くなかった。

家に帰ると、よく千里ペインクリニックの先生やスタッフの話を楽しげにした。誰それが犬を飼っているとか、誰それが近くに住んでいるとか、誰それに美味しいお蕎麦屋さんを教えてあげたとか。それは他愛のない話ばかりで、今直面している深刻な事態については何も触れなかった。私もどこか避けていた。こうして二人で向き合える時間を曇らせたくなかった。

以前から私はドライブが好きで、家から半径2時間以内の定番コースがいくつもあり、お気に入りスポットがあった。たいがいは親しい友人と情報交換しながら開拓した愛着のあるコースで、その後お互いが家族を連れてもう一度ドライブというのがパターンだった。

『今度母を連れてこよう』、そう思っていた場所があった。今を逃すとチャンスはないかもしれない。秋の深まった週末に二人で行くことにした。

六甲山にはもう何度も来ていた。新緑や紫陽花の頃が多かったと思う。そのちょっと西、箕谷から住宅街を抜けた突き当たりに目的の場所、弓削牧場があった。牛たちがのんびりと草を食み、赤いサイロが見える、ここは別世界。レストランの窓際にあるカウンター席で外を眺めながら食事をした。

近くの神戸市立森林植物園に着くと、メタセコイアの大木が出迎えてくれた。ゆっくりと池に向かって歩いていく。鮮やかな紅葉だった。赤や黄の葉が幾重にも重なり、燃え尽きようとする命が輝いて見える。

紅葉をバックに母を立たせて写真を撮った。
写真嫌いの母が、カメラに向かって一生懸命笑顔をつくる。私は夢中で何度も何度もシャッターを切った。

(2006年11月)
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| | 2012/04/01 11:46 | |















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